原稿を手に持ちながらスピーチをする時には、いくつか気をつけておきたいポイントがあります。原稿で顔が隠れないことはもちろん、原稿を持ちながらでもスマートに、スピーチが上手いな、と思わせる方法をみていきましょう。
原稿は、手で持つ
・演台の上に原稿を置くデメリット
議会の質疑・答弁を見ていると、原稿を演台の上に置いたまま話している人がいます。演台に原稿を置いたままスピーチをしてしまうと、余計な動きが生まれ、聞き手は話の内容に集中できなくなります。
原稿を確認する際、背中ごと丸まり、顔全体が下がりますね。チラリとだけ原稿を見て、また元の位置に顔を戻せれば良いのですが、大抵の人は一度原稿を見てしまうと、不安感からチラチラ原稿を見るようになります。すると、顔を下げたり上げたりという、余分な動作が増えてしまいます。余分な動きが入れば、聞き手は動きの方に気が向いてしまい、話の内容に集中しづらくなるのです。
また、その余分な動作の多さから、
・「話す内容が分かっていないのかな?」
・「話すのが上手くないなぁ。」
・落ち着きがないなぁ。
という印象を与えてしまうことに繋がります。安心材料として原稿を置いたのだとしても、演台の上に原稿を広げるのはやめましょう。
・原稿を持つ手の位置
原稿を持つ手の位置は、腰より少し上、原稿の上部角が顎の位置に来るように意識しましょう。
一生懸命原稿を読もうとすると、今度は原稿の位置と顔の位置が近くなりがちです。すると、原稿で顔が隠れてしまい、聴衆には表情が見えません。逆に、聴衆を見て話そうとするあまり、原稿を持つ手が下がりすぎてしまい、結果的に演台に原稿を置いているのと大して変わらない状態になることもあります。
前を見ることも出来て、少しだけ目線を下げれば、原稿が見えるのがこの位置です。
(写真)
話し手も原稿が見え、聞き手にも表情がしっかりと見えます。また、非常に余計な動作も生まれないので、余裕があるように印象付けることも出来ます。
・演台に原稿を乗せても良い時の基準
演台と顔の距離が近い(演台に高さがある)場合は、原稿を演台に乗せても問題ありません。多少顔が下を向いたとしても、大きな動作にはならずに済みます。
また、高さのある演台を使用する時は、原稿を手に持つよりも、原稿を演台に置き、そっと手を添えておくくらいの方がスマートな印象になります。
身長差があるので一概に床から何センチの演台、とは言えませんが、目安として胸より少し下あたりに原稿を置けるスペースがある演台であれば、原稿を乗せても良いでしょう、
練習環境をしっかりと作る
・仮マイクを数本つくる
本番を想定した練習はマストです。特に話し手を困らせがちなのは、マイク関連です。
「当日は、まさかのピンマイクだったんです。」
「途中でマイクの調子が悪くなってしまって、交換してもらったらいつもと違う手持ちのマイクだったんです。」
これは、お客様から実際にお伺いした言葉です。自分が想像していたものと違うものが来てしまい、いつも以上に焦ってしまったそうです。
機材関係に関しては、当日会場に入ってみないと、どれが使えるのか分からない場合も沢山あります。その為にも練習の時点で
・スタンドマイク版
・ピンマイク版
・ハンドマイク版
・卓上マイク版
を想定し、実際に代わりとなるものを持ってみたり、置いてみたりしながら練習をしましょう。
・本番で着る予定の衣装を着けて練習する
スピーチの練習を、自宅ですることも多いでしょう。部屋着のゆったりとしたスウェット、裸足…いつもの慣れた服での練習となります。その服は、本番で着る予定の服ですか?
【ジャケット】
肩パットが入っていたり、体に合わせてオーダーメイドしていたりしますよね。スウェットとの着用感は全く違います。手を思い切り挙げてしまったら、中のワイシャツがチラリ(そのワイシャツからお腹もチラリ)なんてこと、ありませんか?
【革靴】
意外と、足音しますよね。話している最中の自分自身はほとんど気になりませんが、静かに聞いている聴衆は、「コツコツコツ…」という足音がかなり気になります。
本番着用予定の洋服で練習をし、できればビデオを取ることによって、小さなトラブルを未然に防ぐことが出来ます。
・最低30分、集中できる時間を確保する
多くの話し手の一番の問題点は練習時間の確保でしょう。
・やろうやろうと思っていたのに、いつの間にか本番を迎えていることが多い
・ついつい、携帯でメールチェックをしてしまい、練習が細切れ状態になる
・他の仕事が気になって、スピーチの練習に集中出来ない
など、練習時間を確保することそのものに、課題が山積みなのです。
・30分だけ、携帯の電源を切ってしまう
・30分だけ、何もない部屋にこもる(カラオケボックスや会議室など)
・30分だけ、原稿以外の持ち物を手放しておく
余計なものを持たずに、練習に集中できるようにします。特に、「やろうやろうと思っていたんだけど…」という気持ちはあるけど、行動が伴わない、という方は、どうしてもやらざるを得ない状況を作ってしまうと良いですね。自分でお金を払って会議室を借りてみたり、スピーチコンサルタントを雇って一緒に練習してもらうのもやり方の一つです。
聞き手に「スピーチ上手いなぁ」と思わせる魅せ方
・ゆったりとした呼吸
ゆったりとした呼吸は、
・安定した発声
・緊張緩和
・余裕がある印象
に繋がります。浅く・速い呼吸は自律神経を乱す他、体を緊張状態にし、心拍数を上昇させ、焦り・不安へと繋がっていきます。人間の体は、息を吐くことで筋肉が緩みます。重量挙げの選手が、バーベルを上げる時、息を吐きながら持ち上げてはいませんよね。
緊張状態=筋肉は強ばる(浅く・速い呼吸、息を止める)
リラックス状態=筋肉は弛緩する(深く・ゆったりとした呼吸)
と、覚えておきましょう。ゆったりとした呼吸は、 息を吸う量:息を吐く量=1:2 の法則を使います。
①息を吐き切る
②5秒で息を吸う
③10秒で息を吐く
(これを繰り返す)
ゆったりとした腹式呼吸は、話し手に余裕を与えてくれ、聴衆の緊張感も緩和します。
・間と緩急を、原稿に書き込む
原稿が手元にある時こそ、「間」と「緩急」を分かりやすく原稿に書き込みましょう。
普段、私たちが何気なくしている会話には、自然と間と緩急が生まれています。そこに、自然な呼吸(息遣い)があるからです。しかし、原稿を読むという行為となると、急に間も緩急も無くなってしまいがちです。文章で使われる句読点は、会話で使われる間と緩急とは別物だからです。
スピーチは一見、一方的なコミュニケーションに見えがちですが、双方向性のある会話です。話を聞いてくれる聴衆がいるということは、聴衆が一切言葉を発さなかったとしても、相手の呼吸(息遣い)を感じながら話す必要があります。
文章は、目で見て、頭で理解できるために、句読点があるのです。音読をしない限り、筆者と読者の1対1のやり取りとなります。読むスピードも、理解するスピードもバラバラで構いません。また、目次などで話が変わったことや重要ポイントを、明確に示してくれます。
一方スピーチでは、スライドを使うプレゼン方式を取らない限り、目次を提示することはほぼありません。話し手の話術で、話が変わったことや、重要なポイントを伝える必要があります。そのために、「間」と「緩急」が必要なのです。しかし、この間と緩急は、原稿を読む際に意識していないと、忘れられがちなのが現実です。
原稿を声に出して音読した際に、録音をしてみましょう。そして、録音した自分のスピーチを聞き、
・話が変わる場面では「間」を
・重要なポイントには「緩急」を
入れられるように、原稿に書き込みましょう。
・身振り手振り・表情は、あくまで感情ありきで思い切りやること
身振り手振り・表情は、スピーチに置いて非常に効果的ですが、あくまで感情ありきで、やるなら思い切りやるということを、意識しましょう。
・聴衆とアイコンタクトを取る
・議長に言及したい場面では、手を胸より少し上に持っていき、訴えかけるような仕草を見せる
・疑問に思っている話ならば、悩んでいる表情や少し目を細めてみる
・問題が解決した等の明るい話題ならば、微笑んでみる
など、演出することは可能ですが、そこに感情が生まれていないならば、お勧めしません。身振り手振り・表情は「感情と身振り手振り・表情が一致している状態」で使ってください。過剰で感情にそぐわない身振り手振り・表情を使うと、非常にわざとらしく、嘘をついているように見えてしまいます。
身振り手振り・表情は感情表現です。一昔前に、竹中直人さんが「笑いながら怒る人」という一芸を披露し、大ヒットしました。あの一芸はなぜ笑いが起こるのかというと、人間心理に矛盾した状態を逆手に取っているからです。
「言語情報」「視覚情報」「聴覚情報」を『矛盾した状態』で伝えたとき、受け手はどれを優先して受け止めるかという実験があります。メラビアンの法則です。
Aさんは、言葉では「幸せ」と言っているのに、表情は曇っていて、声のトーンが落ちている。
この状態でAさんは、本当に幸せだと感じていると思えるでしょうか。言葉では「幸せ」と言っているのに…。答えは、NOですよね。言語情報以上に、視覚情報・聴覚情報が優先され、聞き手は話し手の感情を、決定しているのです。つまり、話し手の感情と、身振り手振り・表情が一致していなければ、聞き手は話し手の事を、わざとらしく、嘘をついているように感じ取ってしまうのです。
しかし、手を上に挙げる動作で、自分の感情が乗りやすいならば話は別です。どんどん自分を乗せてください。手を上に挙げてしまって、「あ、ちょっと恥ずかしい…」と感じてしまうのであれば、中途半端に映ってしまいますので、気をつけましょう。
まとめ
いかがでしたか。原稿を持ちながらスピーチをするコツを掴めば、聴衆に対する印象や伝わり度も上がります。ただし、一定量の練習は必要ですので、まずは練習をする時間を確保するところから、始めましょう。