経営者の中で、人前で話すことが上手い人と、そうでない人に分かれてしまうのは、なぜだろうか?
今日はその疑問の【根本】に迫ってみたいと思う。
上手く話せない経営者の行動パターン
「上手く話せない」と悩む経営者が陥りがちな行動は、本番の3日前になっても全く原稿が書けていないということだ。そもそも自分は何を話したらいいのだろうか?という思考から抜け出すことが出来ず、本番直前になって焦って書き出す。
原稿を書いている間も、タイムリミットの方が気になってしまい、集中することができない。そもそもネタとなるであろう言葉も書き出せていないため、いっこうに筆が進む気配がないのだ。やがて思考は完全に停止ししてしまい、気になっている別の仕事をやり始める。
そのまま本番前夜を迎え、更に焦る。失敗は出来ない。恥は書きたくない。とりあえず書いた原稿を何度か読み上げ、頭に入れることもできずに本番を迎える。本番は案の定、元の原稿を丸読みするだけになったしまった…という流れである。
この行動パターンにおける、聞き手の心に響くスピーチが出来るor出来ないの答えは、明確であろう。
そして多くの当てはまる人が、「なぜ頼まれた段階から準備をしなかったのだ」と自分を責める。さらに思考回路は、「自分はスピーチに向いていない人間なんだ」という結論に行きつくのだ。
実はこの行動パターンに陥る経営者は、非常に多い。当社のコンサルを受けたいと相談にいらっしゃる経営者の方の実に8割が、当てはまるのだ。経営者なのに行動が遅い?そんな馬鹿な。とお思いかもしれないが、事実である。なぜこのようなことが起こるのだろうか。実は、「スピーチを頼まれた」ということ自体に問題があるのだ。
スピーチの依頼を、「依頼」と受け取らない
まず、「頼まれた」という状況を考えてみよう。例えば経営者があつまる会で「売上を2倍にした経営戦略の話をしてください」という依頼があったとする。まずはこの依頼をどう受け取るのか?というところである。
「頼まれたからやる」という状況を、「伝えたい事があるからやる」に変換できるかどうかに、全てがかかっているのだ。
「頼まれたからやる」という状況には、言葉の通り自発的行動は無い。経営者であれば、仕事に対しての姿勢は基本的に自発的であるはずだ。「頼まれたからやる」という感覚はむしろ、雇われ社員の心理であろう。しかしスピーチとなってしまうと、ついつい「頼まれたからやる」「仕方がなくやる」という思考に陥りやすい。なぜであろうか。
答えは簡単だ。スピーチをするという行動そのものに、責任を持ちたくないからである。だから「苦手なんですが、頼まれましたので…」「上手く伝えられるか分かりませんが、機会を頂戴しましたので…」という、要らぬ前置きから話し始める。一言でいえば、言い訳。逃げである。
そもそもスピーチとは、自分の胸の内にある志を相手に伝え切ることだ。いい話にこだわる必要はないはずなのに、「頼まれたんだ」と思えば思うほど、「いい話」をすることに走りだす。すると自分の中の志ではなく、どこからか取ってつけたような話をし始める事に興味が向いてしまい、自分の志を見失うのだ。そして挙句の果てには「何も思い浮かばない」「何を伝えたら良いのか分からない」という結論に行きつく。これが、原稿が3日前になっても仕上がらない原因だ。
では「伝えたい事があるからやる」はどうだろうか。いい話以前に、自分の胸の内に対して素直な状態である。与えられたテーマについて、「自分はこう感じている」、「こういう経験をした」、「こんな考えがある」という、そもそもの「ネタ」が蓄えられている状態であり、尚且つ自分は何を伝えればいいのかが明確である。
役員が作った原稿やPPTでプレゼンを行ってくれ、という場合も然り。「頼まれたからやる」という気持ちで壇上に上がるのか、例え作られた台本上で行うのだとしても、「伝えたい事があるからやる」のかでは、本番におけるデリバリー力が明らかに異なってくる。
まずは、自分がそのスピーチをどんな状態で行うのかに、立ち戻ることだ。「構成の仕方が分からないから」とか「どうしても断れない状況で…」と言っているならば、まずは自己防衛心を捨て、考えを箇条書きで書きだしてみることだ。自分の信念を、心を、届けるために。
演じる力なくして、人の心は動かせず!